【随筆】AIは小説を分かりすぎる

生成AIは、どう作るかの話ばかりになっている

生成AIについて語られる時、多くは、どう作るのかという話になります。小説を書く、記事を書く、A動画を作る、画像を作る……。生成AIの登場によって、表現する側の人数は間違いなく増えたと思いますし、僕もその中の一人です。

以前ならば技術や時間が必要だったものが、今はある程度までは誰でも作れるようになっています。

一方で、コンテンツを受け取る側の人間が急激に増えたわけではありません。読む時間、見る時間、考える時間。それらは依然として有限です。

生成AIについて考えていますと、どう作るかよりも、どう読まれるかの方が重要なのではないか、と思います。

生成AIで作れるものは多岐に渡りますが、僕は普段、小説などの文章やテキストの読み書きをすることが多いので、今回は小説をはじめとしたテキストをメインに扱います。

生成AIは小説を分かりすぎる

生成AIは、小説をかなり自然に分析できます。テーマ、構造、伏線、感情、ジャンル、文体と色々なことを教えてくれます。一方で、読ませていて強い違和感を覚えることがあります。

生成AIは、小説を分かりすぎるのです。

人間の読者は、本来そんなふうに読んでいません。

初読の読者は、何の話なのか分からない、誰が重要人物なのか分からない、この描写に意味があるのか分からない、読みにくい、名作や古典だしとりあえず読んでみるかという状態で読み進めています。

夏目漱石の「虞美人草 」の冒頭を、「一」を人間はかなり迷いながら読むのではないでしょうか。何が始まっているのか、誰がどういう関係なのか、この話この冒頭や場面からどうなるのか、この文体にどう乗ればいいのか……。

生成AIは、夏目漱石という巨大な文脈を知っています。近代文学というジャンルも知っています。純文学的なテーマも知っています。小説を読むのではなく、小説を理解してしまうのです。

人間の初読とはかなり違う状態で読んでしまいます。ここに違和感がありました。

小説の読書体験は、もっと不安定なものだと思う

小説の読書体験とは、本来もっと不安定なものなのではないでしょうか。誤読、保留、引っかかり、読みづらさ、後から変わる理解。そういう分かると分からないの行き来を小説を読む時に繰り返します。

それなのに、今の生成AIは、すぐにテーマ化し、要約し、意味を固定しようとします。人間に例えるのでしたら、そういう性格や性能、思考なのかもしれません。

固定しようと試みのであれば、こちら側の指示により、どう読ませるかを制御できないか、と考えるようになりました。

読者状態を生成AIに持たせたい

最初は単純な役割プロンプトの延長でした。あなたは初読の読者です、後半情報を参照しないでください、要約せずに読んでください。プロンプトによる指定だけでは難しく、出力されたものは自然と、寄ります。

自作しているWordPress+PHPベースの分析システム(※分析システムについては、こちらをご確認ください)に、読者状態を組み込めないかと考え始めました。

現在、自分のローカル環境では、WordPressの記事本文抽出、Markdown化、五感分析、頻出語分析、類似作品分析、文体分析などを行っています。

そこへ、どういう状態で読むのかを追加できるのではないか。初読状態を維持、後半情報を参照しない、テーマ化禁止、要約禁止、読みにくさを保持、引っかかった描写を記録、誤読可能性を保持などを、チェックボックスやプリセットとして持たせる。

それをMarkdown内へ書き込み、この条件で本文を読んでくださいという形で生成AIへ渡す。

AIに小説を書かせるのではなく、AIにどう読ませるか

これらの分析システムは、AIに小説を書かせるためではありません。AIにどう読ませるかを扱っています。

生成AIは、役割生成が得意です。教師、編集者、批評家、初心者……。求められる役割になれます。でしたら、当然、読者状態も作れるのではないでしょうか。

生成AIは、人間よりも遥かに大量の読者状態を並列生成できます。展開や物語の面白さを重視する読者、文体や語彙を重視のする読者、難しい部分や分からない部分は読み飛ばしがちな読者、まとまった時間が取れずに隙間時間で少しずつ読む読者、純文学に慣れていない読者、疑い深い読者などを仮想化できます。

すると、一つのテキストに対して、どこで意味を固定するのか、解釈を深めるのか、離脱するのか、引っかかるのか読む速度が変わるのかを、複数の読者状態で見ることができます。

これは小説だけの話ではない

これは、小説だけの話ではありません。PR記事、noteの記事、動画台本、LP、Webライティング……全ての読み物で試すことができます。今のコンテンツ論は、どう作るかのハウツーが大量にあります。SEO、構成、導入、タイトル、見出し、本文。どう読まれるか、どう消化されるかは、あまり語られません。離脱率や滞在時間ぐらいでしょうか。

本来コンテンツは、読まれて初めて成立します。あるいは、消化され、触れられることで。本当に重要なのは、読者がどういう認識状態を経て、そのコンテンツに触れるのか。その読者に生成AIがなれるのではあれば、得られるものはあるではないでしょうか。

生成AI時代は、受容の方が重要になるのかもしれない

生成AIによって、大量生成は可能になりました。生成AIの出力されたコンテンツを、僕もよく目にします。冒頭にも書きました通り、コンテンツを受け取る側が同じように増えたわけではありません。受け取られ方の方が重要になり始めていると考えられます。

今の生成AI活用は、多くが生成に偏っています。

僕が考えているのは、その逆です。受容を扱いたいです。小説を書くために、読書体験を分析したいわけです。読者は何を見ているのか、どこで迷うのか、どうやって文章へ入っていくのか。

そこを、生成AIを使って考えられないか。そんなことをずっと考えています。


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