不思議な夢のような夜

PDFファイル版(文庫サイズ・縦書き)

 

「不思議な夢のような夜」

バーでのバイトが終わって、真夜中の道を自転車で駆ける。頬にぶつかった風が、まだどこかに咲いているらしい春の花の香りを運んでくれる。雲一つない夜空には明るい満月があった。

家に帰って、静かに鍵を開ける。そっとドアを開けて、足音を可能な限り立てずに入る。短い廊下の右手に備え付けられているキッチンの灯りは消えている。廊下の突き当たりの八畳間はオレンジの常夜灯が点いていて、薄灯りを広げている。
十分に静寂を保っていたはずなのに、部屋の奥の窓際に置いてあるシングルベッドの方から、吐息と一緒に零れたような、微かな声がフローリングへと滑り落ちた。びくっと肩を上下に動かし、

「……ごめん、起こした?」

小さな声で訊いてみる。

ベッドから反応はない。でも、布団はもぞもぞと動いて、柔らかい音が返ってくる。

心臓が速い鼓動を一つ打ち、耳が熱くなる。大きく息を吸い込み、ゆっくりと細い息を吐き出す。何回か繰り返し、八畳間の手前にベッドと並行に並べられた布団に潜り込む。

実家から持ってきた寝具類が、こんな時に役立つなんて思いもしなかった。俺がこっちで寝るとは思わなかった。バーのお客さんに寝具にはこだわった方が良いと言われて、少し良いベッドで寝てて、古いのは友達が泊まりに来た時に寝てもらっていたから。

ベッドとは反対の方向に寝返りを打った時、枕から嗅ぎ慣れない香りがした。自分の使っているシャンプーじゃない、甘い匂い。ピーチとかアップルとかそういうフルーツの甘さじゃない。花の香り。今、俺のベッドで寝ている女のシャンプーの香りだとすぐに分かった。
がばっと身体を起こす。手のひらは、いつの間にか汗をかいていた。まだ夏は訪れていないのに、身体が熱い。背中も汗が広がっている。キッチンの冷蔵庫を開けて、冷たい水を飲む。

蜃気楼、逃げ水、陽炎……幻という言葉でまとめるには、あまりに実感があった。実感という言葉でまとめるのもおかしい。事実だ。紛れもない現実として、俺の身に起こっていること。

俺は好きでもない異性と同棲している。

 

 

俺はその夜もあまり眠れなかった。眠ろうと横になって、うとうとしていたのだけれど冷蔵庫から発せられるじぃっという音が気になり、ベッドからは寝息が聞こえるし、真夜中は俺が思っているよりもずっと騒がしかった。俺はいつしか布団で横にならず、キッチンにスツールを持ち出して、スマホを使って夜を明かした。

大学の同期から不思議な同居人にその位置を変えた持田茜は、そういう物音を気にすることなく、俺のベッドでしっかり朝まで寝ている。彼女が起きたのは、午前七時過ぎで、休みの日とは思えないほど常識的で健全な時刻だった。使った布団をちゃんと畳んで、カーテンを開ける。射し込んできた朝日を受け、うっ、眩しい……と苦々しく呟く。

持田は枕元に置いた黒縁の大きな眼鏡をかけて、離れた所にある誰もいない布団を見下ろして、奥のキッチンに居る俺を見つけて、小首を傾げる。何? と俺が問おうとするよりも早く、持田がこちらに歩み寄ってくる。小さな女の子が、どんどんと近づいてくる。

ミント色のパジャマからはみ出している手先や足先は白く、細い。分厚い黒い前髪で額から目頭や目尻を隠している持田は、じっと俺を見ている。

俺は急に居た堪れなくなって、スツールから立ち上がり、冷蔵庫を開けて、身体を屈めて、中を見る。買い出しに行こうと思って行けていない空っぽの冷蔵庫。赤みを帯びた頬に冷気が当たって、気持ちが良い。

一人暮らしの男の家ではまず聞けない、鈴の音を転がした女の子の声が、俺の耳に届いた。

「……おはよう、もうご飯?」

「おはよう、……何もない」

どこか食べに行く? とベッドの方を振り返った時、持田の横顔がずっと近くにあった。鼻先を持田の黒髪を掠め、絹のように艶やかで、甘い花の香りが鼻をくすぐる。すらっとした鼻筋や厚みのある大きな唇が、見えた。口元にぽつんとある小さなほくろも。

持田は俺と同じように冷蔵庫の中を覗いていた。

「うわ、本当にない」

持田は何がそんなに面白いのか明るい声を立てて、笑う。俺は欠伸を零して、素っ気なく言う。

「閉めるよ」

「ご飯、どうする?」

俺はスツールに腰掛けて足を組んで、余計なことを考えていることを悟られないように答える。

「考え中」

持田はキッチンから離れることなく、俺を見上げる。分厚い前髪の影から、眼鏡越しに黒い目が潤んで見開かれていた。

「西田くんって普段、何食べてるの?」

「休みの日?」

「うん」

「寝てる」

「え、聞いてた?」

「聞いてた」

「答えになってなくない?」

「大体、外で食べてるかな。仕事前だし」

「ブルジョワめ……」

「え、あ、急な悪口……。てか、ブルジョワはそっちじゃない? あっこに住んで、よく言うよ」

矛先を向けられた持田は頬を膨らませる。

「お父さんとお母さんが出してくれてるから、それはまた違うと思う」

彼女は、大学の近くで一人暮らしをしている。大通りに面して交通の便が良い場所にあり、俺も引っ越しで部屋を選んでいる時の候補として存在はしていた。でも、わずかな仕送りと奨学金とバイトで生活する大学生には手が出ない家賃をしていたので、真っ先に候補から外れた。

エントランスは常時オートロックで、入るのにカードキーが必要となっている。宅配ボックスもあって、コンシェルジュサービスなんてのも使えるらしい。廊下には監視カメラが何台もあり、エレベーターで目的の階に上がるのにも別のカードキーが必要となっている。家には鍵が二つあるし、防犯ブザーもある。

駅から遠くて、狭い通りが何本も存在していて、鍵が一つしかないこことは大違いだ。

「まぁ、それは確かに……?」

「バーのバイトってそんなに良いの?」

「まぁ、うん、深夜だし……でも、お客さんの対応とか大変だぜ?」

「お昼も外食の予定?」

「多分? あ、いやでも日曜か……」

どうしようかと悩みながら近くの飲食店をスマホで探していると、同じように悩んでいたはずの持田が小さな手を挙げていた。俺は彼女に空いている手を差し向けて、促す。

「はい、どうぞ持田さん」

「何か作ろうか?」

「……はい?」

思いがけない提案に、俺は上擦った声を上げた。持田は俺の家のリビングで、パジャマ姿のまま、胸を張る。挙げていた手を拳に変えて、自分自身の胸を叩く。骨に当たった固い音がしたような気がした。

「任せて、上手いから」

「……うん、まぁ、でしょうね」

「これは恩返しだから」

「恩返し、ねぇ……」

最近、持田の住んでいるマンション周辺でストーカーが出没するという噂が立っている。場所を考えると駅に向かう人なのではないかと思っているのだが、持田曰く違うらしい。

噂であるため警察に相談してもアドバイスをされる程度。遠方に住む家族の助けを借りるのも難しい。セキュリティーがしっかりしているマンションに住ませてもらっているので、大丈夫だろうと思われているらしい。

女友達を頼るべきだったのだけれど、女友達の多くが学生寮で暮らしている持田には、それができない。恋人の家に転がり込めば良いのだが、今の持田にそんな人もいなかった。恋人でも何でも男友達の家に転がり込むのは、危ない。そんな彼女が頼りにしたのが俺だ。夜はバーのバイトで出かけている俺は、他の男達と違って安全らしい。

俺も俺でリスクのことを考えたが、理由が理由なので突っぱねることができない。踏み込むこともできず、西田くんしか頼れる人がいなくて……と言われてしまい、俺は意を決した。
俺にできることといえば、ストーカーの噂が早くなくなることを願うぐらいだろう。人の噂も七十五日というし、それくらいには落ち着いていると思いたい。七十五日先ってことは夏休みが始まる頃だ。それまでこのままだったら、持田はずっと俺の家にいる気なのだろうか。俺と持田はそれまで、友達のままでいられるのだろうか。もしかすれば……俺は同時に浮上してきた煩悩を振り払うように、目下のことに集中する。

「……まぁ、まずは朝食か」

「朝ご飯作って、残りはお昼に回す?」

「スーパーが開いてない」

「え、じゃ、どうしよう?」

「モーニングでも食べに行って、そっから買い出し」

俺はスツールから腰を上げて、クローゼットにしまってある薄手のパーカーを引っ張り出し、出かける準備に入る。

「え、あ、じゃあ……西田くん、お願いがあるんだけど」

それまで元気が良かった持田は急に弱々しい声を上げる。まだパジャマを着ている持田の戸惑った視線が俺に向いたかと思えば、天井に向かれ、ぐるっと辺りを見る。

一人暮らしの俺の家では、女の子がパジャマから着替えるスペースなどどこにもなかった。え、あっという何かを気づいた赤い声は、俺の声なのか持田の声なのか分からなかった。

俺は急いでパーカーを羽織って、持田の脇を通り抜ける。背を向けて、スニーカーを履きながら何かを誤魔化すように矢継ぎ早に言う。

「……先行っとく。ゆっくり準備していいから。店はスマホに送っておく。鍵ちゃんと閉めてな」

 

喫茶店でメニューを見ているけど、眺めているだけで全然決められそうにない。出入り口から近いソファ席で一人でいるのに気まずくなって、注文を聞きに来た店員さんに、待ち合わせなので相手が来てから頼んでもいいですか? と確認すると、俺がバイト中に浮かべるような清々しい微笑で許してくれた。

一安心した鼻から抜ける息が荒い。頭の片隅に、シャワーを浴びたり、パジャマから着替えたりしているであろう持田の姿が思い描かれる。

こういう生活が後どれくらい続くのだろうか。夏休みに入る頃まで続いていれば、多分、持田は実家に帰ると思う。そっちの方が今よりずっと安全で、安心できる。持田自身もそうだし、俺もそうだ。

でもと即座に思う。それが根本的な解決になっているのだろうか、と。

怯えていた持田にはとてもだが言えないし、今後も言う気がないけれど、ストーカーはあくまで噂だ。推測の域を出ない存在。俺が昨晩懐いた、蜃気楼、逃げ水、陽炎……そういう幻と一緒だ。

何も起きていないし、これからも起きることはないと考えることもできる。考えられるのだけれど、そういう考え方は、警察と家族と同じだ。噂に思い悩む持田の助けにはならない。
八方塞がりのような、どこへも変えられないであろう思いが、じわりと胸に広がる。寝不足で乾いた目が痛い。持田はこの苦しみに加えて、本当にストーカーがいるかもしれないという恐怖と戦っている。持田が行動を起こしたように、俺も何かした方が良いのかもしれないが幻と戦える術は思いつかない。

どうしたらいいのか考えていると、ズボンのポケットに入れていたスマホが震えた。ロック画面に、持田からメッセージが届いていることを知らされる。どこ? という単純明快な言葉の後ろには、辺りを見渡すパンダのスタンプが続いている。迎えに行く、どこ? と返事を送ると、すぐに既読がついて、近くのコンビニにいることを教えてくれる。俺の家から曲がる通りを間違って別の通りに出たらしい。

動かずに待っていて、すぐに行くから、と返事をしてから、俺は店員さんに一声かけて、持田を迎えに喫茶店を出る。既読はすぐについた。

持田は俺の言葉をちゃんと守って、コンビニの軒下に居た。でもその姿が、普段の大学で見かける時のような、ロングスカートとか品の良い襟のついたシャツとかブラウスとは違って一瞬声をかけるのを躊躇いそうになる。

ペールカラーのショートパンツと同じ色合いに揃えられたカットソー、白いスニーカーから覗ける手足はパジャマの時より長く見えて、でも同じように細い。背の低いはずなのに、細長く感じる不思議さが持田にはある。長い髪はネイビーのキャスケット帽の中で器用にまとめられているようで、寝起きの時には隠していた白い額やふっくらとした頬が、帽子と眼鏡の影の中にあった。その顔は慣れない場所で待っているのか俯いていて、固さがある。

「迷子になるの早くない?」

「このへん、分かりにくいの」

持田の顔が花が咲いたように明るくなる。朝に色味を帯びていなかった唇は、今ではブラウンに輝いている。

持田と喫茶店へと戻って、正面の空いているソファ席に座らせて、その印象の違いに驚く。

「雰囲気、違うね」

持田は良くぞ聞いてくださいました、と言いたげに笑う。

「これは変装」

「変装?」

「対策だよ対策」

「……効果ある?」

「しないよりは良いって友達が言ってた」

適当にモーニングを二人分頼んで、俺は大きな欠伸をする。持田が、じっと俺の顔を見つめている。

尋問されているような気まずさを覚えながら、大きく澄んだ瞳に目を奪われそうになる。真夜中の夜空を思わせる深い色は、喫茶店の白い照明を受けて、輝き、潤み、時には揺蕩う。まるで、水面に浮かぶ月のようだ。ずっと見てられても苦しく思えず、むしろ心地良く、ずっと見られていたいと思わせる。

眼鏡や髪の毛とかで隠れがちだけど、勿体ないと思う。変装なんか意味がないと言い切らせるものが、持田の瞳にはある。

ストーカーされているかもしれないと持田は言っていたけれど、この目に見つめられると、そうなのかもしれないと分かる。

蜃気楼、逃げ水、陽炎……幻という言葉でまとめるには、実感を覚えさせる。実感という言葉でまとめるのすらおかしい。紛れもない現実として、持田の身に起こっている。
長い沈黙を破ったのは、持田で、眉間を少し寄せていた。大きな瞳は俺の目を見ているようで、俺の目の下に広がっている黒いくまを見ている。

「……もしかしてなんだけど、寝てない?」

現実へと引き戻されたけど、まだ上の空で、持田の瞳を見返していた。

「あ、うん」

「どうして?」

「まぁ、そういう日もある」

「休みの日は寝てるんじゃないの?」

「そうだけど?」

「今、寝たい?」

「……まだ早い」

「そう?」

「うん、そう」

単調になった会話を終わらせるように、二人分のモーニングが運ばれる。ホットのブラックを啜って、俺はようやく現実に帰ってきた。

「朝はいつもこうだから心配しなくていいよ」

持田はアイスティーをストローで吸いながら、まだ全然納得していない様子だった。

「本当?」

「ちゃんと寝てるっしょ?」

「それはそうだけど……」

バイト終わりに寝られていないことと持田の存在は関係あったけれど、俺は精一杯、勘付かれないようにする。俺が寝られないことと持田の存在に因果関係が結ばれてしまえば、持田はきっと真夜中の間にどこかへ行ってしまうような予感を覚える。そういうふうに自分を犠牲にしてほしくない。

俺は踏み込まれないようにするために、話題を未来へと進める。

「昼食は何、作ってくれる予定?」

「何がいい?」

「何でもいいよ」

持田は睨むように視線を上げて、目一杯俺の恐怖心を煽ろうと低い声を出す。

「サンドイッチになって、二食続けてパンになったりするよ?」

「俺は別にパンが続いてもいいけど?」

「え、嘘、嫌じゃない? ご飯にしようよ。あ、パスタとかどう?」

「じゃ、それで」

「決定! スーパー何時から?」

「……多分、九時?」

「あの、西田くん、一時間ぐらいあるけど?」

「うん。だから、そんなに焦る必要はないわけ」

俺は手早くトーストを食べて、茹で卵をテーブルに打ち付けて、殻を剥き始める。

「早く寝たいと思わない?」

「思わない」

きっぱりと否定すると、持田はようやく安心したように口角を上げた。

 

持田の手際は良かった。

人の家のキッチンを借りているので、包丁がどこにあるのとか生ゴミをどこに捨てればいいとか色々訊かれたけど、途中からはそういう質問が聞こえなくなった。鍋を火にかけている音とか包丁が一定の速さで食材を切る音や合間に洗い物をする音しかしない。

俺はベットと布団を区切るように置いたローソファに背中を預けて、持田の後ろ姿を眺めていた。いつの間にか買っていたらしいベージュのエプロンの後ろ紐は蝶に結ばれていて、持田が動く度に宙を舞う。その蝶を追いかけると、段々と瞼が重くなっていく。

 

スマホのアラームが鳴って、跳ね起きる。固いフローリングに頭が落ちていて、痛かった。鈍い声を上げると、部屋の端、ベッドの方から持田の高い声がした。

「わ、起きた。おはよう」

持田はベッドに座り、壁にもたれてスマホを触っている。

「……おはよう、何時?」

「十八時だけど」

持田の言った通りの時間が、俺のスマホに表示されている。バイトに遅刻しないように設定していたアラームが鳴ったらしい。俺はほっと息を吐いて、いつの間にか眠っていたことを謝る。

「えっと、ごめん」

持田はひらひらと顔の近くで手を振って、朝と変わらない、伸びやかで柔らかい声で応じる。

「全然大丈夫だよ。まぁ、急に寝たのはびっくりしたけど」

「たまにある」

「ちゃんと布団で寝た方が良いと思う」

「次からそうする」

持田の視線が俺からそのずっと向こうにある冷蔵庫に移る。

「お昼、冷やしてあるから」

「ありがとう」

「どういたしまして……っていうのも変か」

何かが可笑しかったらしい持田は、小さく笑う。

「変じゃない」

「恩返しなのに?」

「うん、これで対等。イーブン」

冷蔵庫を開けると、綺麗にラップされたボロネーゼがあった。サラダも小鉢に盛られていたし、小さくカットされた林檎もある。サラダもフルーツも家で食べるのは、実家で住んでいた頃まで遡らないとないような気がする。

レンジで適当に温めて、いただきます、と手を合わせる。持田の作った料理は普段食べるのとは違う、暖かさに満ちていた。

「うまい」

「お口に合って、良かった」

「いやぁ、凄い」

「これくらい簡単だよ」

「俺、あんまり料理しないから」

バイトの時や飲食店で店員さんに接する時とは違うものが、ここにはある。お酒の飲んでいる人達と接する時とは違う、酔いに任せていないちゃんとしたものがある。

ストーカーの件が落ち着けば、持田は俺の家から去ってしまうのだろう。それが健全で、好きじゃない女友達を家に泊めている今がおかしいだけだ。持田が帰れば、今まで通りの生活に戻るだけで、それが普通なことだ。

でも、戻りたくないと思う。戻りたくないと思うのは、悪いことなのだろうか。持田に危害を加えているわけではないのに、何を悪いというのだろうか。

「なぁ、持田」

「どうしたの?」

「これからさ、どうする?」

「西田くん……?」

「その、ストーカーの件が落ち着いてもさ、家に居ない? 居るのがあれなら、来るだけでも良いしさ」

持田は、何も言わずに俺を見る。

俺は持田から答えを聞くのが怖くて、バイトに行く準備をする。財布やスマホをショルダーバッグに入れる。

「すぐじゃなくていいから。帰って来たら、答え教えて」

持田は赤くなった頬で、呟いた。

「今夜寝れないのは、私だね」〈了〉


 

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